わたしとGolf Vol.1 iriさん(ミュージシャン)
Golf Ⅱ CLi (1989)
白いGolf Ⅱのために免許を取得、
マニュアルからはじまったiriのカーライフ
「この子を運転してると、シンプルに元気になれるんです」。
そう語るのは、しっとりとした低音の歌声で聴き手を魅了するシンガーソングライター・iriさん。彼女が“この子”と呼ぶのは、自身より年上の1989年製ゴルフ Ⅱだ。初代のDNAを受け継ぎつつ、近代的なデザインがなされた名車で、現在では当たり前になっている安全機能をいち早く備えた一台だが、35年以上前に作られたゴルフに彼女はなぜ惹かれ、乗り続けるのか。
iriさんがよくドライブするという湘南の海岸沿いで、ゴルフというクルマの魅力を聞いた。
免許を取ったのは、憧れのクルマのため
ーどのような経緯でゴルフⅡのオーナーに?
自動車免許の取得は約3年前です。前から「免許があったらいいな」と思ってはいたのですが、どんなクルマに惹かれるのか自分でもわからず、SNSや雑誌をめくったり、友人に聞いたりしながらぼんやり探す時間が続いていました。
そんな中で、デザインとアナログな道具感に心を掴まれたのがゴルフⅡでした。インターネットで白いこの子を見つけた瞬間、早く免許を取って乗らなきゃ! と、気持ちが固まりました。丸目の顔がどこかうちの愛犬にそっくりで。愛犬は真っ黒なんですけどね、とにかく愛おしい表情なんです。
身近にマニュアル車に乗る友人がいて、「大変だけど、クルマは手がかかるほど可愛くなるよ」と背中を押してくれました。もちろん、機能や安全面では新しいクルマの方がよいことはわかっていますが、私は見た目優先。音楽やファッションも通じるのですが、私的には少し古いもののほうが落ち着く感覚もあって、自分で動かしている感じも楽しそうだと思い、マニュアルのものを選びました。
ー購入後の思い出を教えてください。
私がゴルフⅡに惚れたきっかけは、海外の街中をゴルフが走っている古い写真。その強い印象が頭に残っていて、乗る前は遠い存在というか、近寄りがたい憧れ。買ってからしばらくは「こんなに美しいクルマに私が乗っていいのかな」と、緊張していたのを覚えています(笑)。
また、購入してまもなく、両親を乗せてドライブに出かけたこともよい思い出です。道中ずっと「車間、大丈夫?」と心配されっぱなしでしたが、景色のいい場所に停めて、家族でゴルフⅡを背景に写真を撮り合いました。後日、母も昔ゴルフに乗っていたことがわかり、当時の写真を見返すと、その車体も白。親子で好みが似ていたんだな、とちょっと驚きました。
Golfがすっかり人生の一部に
ーはじめてのクルマが旧車というのは大変だったのでは?
ゴルフⅡはたしかに年式は古いですが、いわゆるヴィンテージほど気負わずに乗れています。ワーゲンは古いパーツも手に入りやすいと聞いていたので不安は少なく、むしろ、手間がかかってもこのクルマに乗りたいという気持ちの方が強かったですね。
「よく壊れるでしょ?」と周りから心配されることもありますが、実際はまったくそんなことはなく、3年乗っていても止まったり煙が出たりといった大きなトラブルはまだありません。ワンオーナー車で前オーナーが丁寧に扱っていたおかげもあると思いますし、私もそれに倣って、いつもと調子が違うと感じたらすぐチェックしてもらうようにしています。
ー普段、愛車とはどのように付き合っていますか?
基本的に仕事や日常の足という感じでは使っていなくて、休みの日に海岸沿いへドライブに行ったり、サウナや銭湯に出かけたりします。その時に一緒にいてくれる相棒……というか、友達、もしくは家族のような存在ですね。仕事で忙しくてしばらく乗れない時期には、遠く離れていても「元気にしているかな」なんて思い浮かべてしまうくらいです(笑)。
あと、これはクルマとの付き合い方としては特殊なのかもしれませんが、ある意味でオーディオルーム的に使っているときがあります。レコーディングした自分の曲はスタジオの良いスピーカーでも聴きますが、同じ音源を車内で聴くと、判断がすっとクリアになる気がして。
運転で意識を少し散らしながら聴くと、過剰な処理に気づけたり、リスナーの実環境に近い耳で確かめられたり。作りかけの曲でも、最新の音響よりこちらのほうがジャッジしやすいことが多いですね。
駐車場に停まってる姿も可愛い
新旧Golf、35年のギャップに萌える
ー最新のゴルフに乗ってみて、いかがでしたか?
普段はマニュアルのゴルフ Ⅱに乗っているので、最新機能を備えたオートマ車には正直少し不安がありました。でも新しいゴルフは、機能が多くても操作系がデジタルスイッチにうまく集約されていて、全体としてシンプル。はじめてでも直感的に扱える感覚でした。
あと、私のゴルフ Ⅱは割と大きな排気音が聞こえるのですが、マイルドハイブリッドのおかげなのか、そもそもの静音性が高いのか、最新モデルは走行中も車内が静かで驚きました。
ゴルフ Ⅱの方も当時の日本車と比べるとガッチリできていて、ドアを閉めた時の「バタンッ」という音に重厚感を感じました。シートも包み込む感じで、守られている安心感があり、もう少し慣れたら、高速デビューもできそうだなと思いました。
ー個人的に刺さったポイントは?
現代的ではあるものの、ひと目でゴルフだとわかるデザインが魅力的だなと思いました。スタイリッシュで品があって、だけど嫌味じゃない。これはどのゴルフ にも共通して感じることなのですが、街中でも海沿いでも、きっと峠道でも、どこでも馴染む。それって、いろんな場所に連れて行ってくれるクルマというモノのデザインとしてすごいことですよね。
さきほどフォルクスワーゲンの方から、「ヘッドライトとグリルを横一直線でつなげる水平基調のデザインや、シンプルなサイドビューなど、初代から受け継いでいるアイデンティティなんです」と教えてもらったのですが、50年以上ものあいだ、ずっと変わらない“ゴルフ らしさ”を守り続けているという事実に、素直に感動しました。
一緒に歳を重ねたい私の愛車
ーiriさんにとってゴルフ Ⅱはどんな存在になっていますか?
個人的に音楽でも洋服でも古いものが好きで、アナログなものに惹かれるタイプ。クルマに関してもゴルフ Ⅱのシンプルさは私のモノの価値観にも馴染んでいるのかと思います。シートに座ると不思議と落ち着くし、ハンドルを握れば気持ちが明るくなって、ただ走らせているだけでリフレッシュできるんです。
可愛くて美しいデザインがゴルフ Ⅱに惹かれたきっかけですが、乗っているうちに、私と一緒にクルマも歳を重ねていきたいなという思いが強くなってきました。白いボディや黒いプラスチックのパーツは、いずれ少しずつ色褪せるでしょうし、海沿いを走ることが多いから錆びが出ることもあるかもしれません。でも、ゴルフはそれも一つのアジとして楽しめるクルマ。だから、直せる限り直しながら、今後もこの子に乗り続けたいと思っています。
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iri
出身地:神奈川県
職業/肩書き:ミュージシャン
SNS/HP:IG:@i.gram.iri/
車種:Volkswagen Golf Ⅱ CLi (1989)
所有歴:3年
クルマの主な使い方:休日のドライブ