わたしとGolf Vol.2 片貝俊さん(スタイリスト)
Golf Ⅳ (2006)
あまのじゃくな僕が選ぶスタンダード、
Golf Ⅳは“何っぽくもない”のがいい
広告や雑誌、俳優のスタイリングまで幅広く手がける片貝俊さん。ファッション業界でも花形的な職業だが、その仕事の大半は裏方だ。日々足を使って変わりゆくファッションの潮流を捉え、プレスルームから大量の服を借りて、作業場でコーディネートを組み、現場で仕上げて、そして返却する……。仕事柄、スタイリストは大型のSUVを選ぶ場合が多いが、片貝さんの愛車はコンパクトなゴルフ Ⅳ。家族からも「もっと大きいクルマにしたら?」 といわれても、彼は、その何物にも代え難い相棒をいたく気に入っているのだ
可愛い小さい車とマイカー遍歴
―ゴルフ購入前のエピソードを教えてください。
このクルマは、僕が自分で買って乗ってきた中では3台目。いちばん最初のクルマはフォルクスワーゲンのルポで、たまたま知人が売りに出すということで購入させてもらいました。次に乗ったのは某ドイツ車ブランドのコンパクトカー。そしてこのゴルフ Ⅳという流れです。
僕はエンジンやスペックには詳しくなくて、クルマはパッと見の印象で選ぶタイプ。ドイツ車にこだわっているつもりはないのですが、イタリアやフランス車には個人的に独特の癖を感じてしまって……。その点、フォルクスワーゲンの可愛らしいデザインに惹かれるところがあって、ゴルフを選んだのも自然な成り行きだったのかもしれません。なかでもⅣを選んだのは、独特な造形で、いい意味でビミョーな感じが自分好みだったから。どの世代のゴルフにもそれぞれの良さを感じて、特にⅡは最後まで検討していましたが、僕には少しオシャレ過ぎる気がして。そこで、あんまり街で見かけないし、Ⅳを探して購入したんです。
―片貝さんのモノ選びの基準とは?
洋服選びも人柄やセンスは出ますが、基本的にはその日の気分で変えられるもの。だけど、多くの持ち物は“ずっと使う”前提ですよね。その意味で、クルマはファッション以上に人柄が表れるものだと思います。僕の場合、クルマは見栄や自己主張のためではなく自己満足。見た目が小さくて可愛いことを最優先に選んでいます。
それに、僕の職業は紛れもなくスタイリストですが「スタイリストっぽい」って言われるのがすごく苦手で(笑)。衣装をたくさん積めるような大きなクルマに乗りたいとも思わないんですよね。自分でもあまのじゃくだと分かっているんですが、“〜っぽくもない”、何にでもなれるニュートラルなものを選ぶことが多いのかもしれません。アウトドアに行きそうでもなく、速く走りそうでもない。流行ってもいないし、派手でもない。なんならゴルフ Ⅳは分かりやすい可愛さすらない。でも、そこが可愛いと僕は思うんですよね。
僕にとっては、小さいからこそ”ゴキゲンなクルマ“
ーフォルクスワーゲンブランドのクルマにはどんなイメージを持っていますか?
フォルクスワーゲンは小さいクルマもラインナップしていて、全体的に好みのデザインが多いですし、最初のクルマがルポだったので思い入れがあります。子どもの頃、ご近所さんがゴルフⅡに乗っているのを見て「フォルクスワーゲンって可愛いクルマなんだな」っていう印象が強く残っているのかもしれません。
大人になって首都圏で過ごすようになってからは、フォルクスワーゲンは輸入車でも華美な印象を受けず、どんな場所にもなじむクルマだと改めて感じます。特にゴルフはベーシック。50年以上もの間ずっと作られ続けているだけあって、日常的にいろんなゴルフを目にしますが、それはやっぱり、みんなに評価されているということなんですよね。
ー普段、愛車とはどのように付き合っていますか?
横浜の自宅から都内の作業場やブランドのプレスルームを回る足として、日常的に乗っています。都内は狭い道も多いですが、ゴルフならヒヤヒヤすることもありません。高速も使いますが、いつも左車線キープで無理にスピードは出さず、クルマをいたわりながら走っています。休日は妻や子どもたちと出かける際に使ったりしつつも、短距離すぎる移動はクルマに負担がかかるかなと、近場なら自転車で移動することも多いですね。
愛車を大切にする一方で、あえて洗車をしないというのもポリシーにしています。購入時に「ボンネットの塗装が経年劣化でムラになっていますが、塗り直しますか?」と聞かれたのですが、むしろそのままの方がこのクルマには合っているような気がして。この年代特有のシルバーの色味と、どこかアンニュイな佇まいには、ピカピカしているより少し汚れているくらいの方が似合うと思うんですよね。
なんとも言えないデザインがすべてツボ
確かに感じるGolfの系譜
ー最新のゴルフに乗ってみて、いかがでしたか?
最初は、いつもの愛車から何世代も後のクルマだし「きっと別物だろうな」と思ってました。けど、いざハンドルを握るとちょうどいいサイズ感はそのまま。取り回しもしやすくて、すぐ安心して走れました。タッチパネルみたいな分かりやすい進化がある一方で、身体にしっくりくるシートや、走っても疲れにくい乗り味といった、体感で分かる進化もちゃんとある。静かさや剛性感も含めて、日常での使い勝手が着実に磨かれていると感じました。
今回、フォルクスワーゲンがドイツ語で「大衆のためのクルマ」を意味することを、恥ずかしながら初めて知りました。でも乗ってみるとまさにその通りだなと納得。誰にでも扱いやすく、どんな景色にもなじむ。その先に、世代を超えて受け継がれてきた本質があると感じました。時代に合わせて進化しつつも、常にタイムレスを目指す。そんな姿勢が最新モデルのデザインや操作感のシンプルさに表れていますね。
ー特に個人的に気になったポイントは?
まず、マイルドハイブリッドのなめらかな走りと、力強いのに怖くない加速。誰でも運転しやすく、街乗りでストレスを感じにくいというのが1番の印象でした。そして、走行中のヘッドアップディスプレイも便利。視界を遮らずに必要な情報だけが入ってくるので、安心感があります。新しいクルマは機能が多いぶんボタンが増えてごちゃつくイメージがあったのですが、操作系がうまく整理されていてシンプルに使えるから、運転に集中できました。
これまで最新のクルマに乗ってきてなかったので、クルマは機能よりもデザイン一辺倒で選んできた部分がありますが、この数十年のあいだに、ゴルフはここまでドライバーのサポートを考えてきたんだなと実感できた気がします。自分の愛車は僕の方が労っているけど、最新モデルはその逆で、クルマが僕を労ってくれている感覚でした(笑)。
僕のフェイバリットはⅣだけど……。
ー片貝さんにとってゴルフⅣはどんな存在になっていますか?
ファミコンとかパカパカのガラケーみたいな、ちょっとレトロな空気感がゴルフⅣにはあって、自分にはそのアナログ感がちょうどいい。そんな、あまのじゃくな自分の価値観をそのまま映したようなクルマだと思っています。
しかし、それは見た目の話。機能で言えば断然、最新のゴルフが快適。正直、最新の走りと装備のまま、見た目だけゴルフⅣだったら僕の理想なんですけどね……。
でも結局、ファッションと同じで、人の好みもトレンドも変わっていきます。だからこそ、変える部分と変えない芯を積み重ねながら、ゴルフは50年以上かけて「らしさ」を更新し続けてきたのだと思います。いまの僕のフェイバリットはⅣ。でも、10年後は別の世代に惹かれているかもしれない。その変化も含めて、ずっとゴルフを好きでいられる気がします。
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片貝俊
age43
出身地:愛知県
職業/肩書き:スタイリスト
SNS/HP:IG:@katakaishun
車種:Volkswagen Golf Ⅳ (2006)
所有歴:4年
クルマの主な使い方:平日は仕事の、休日は家族の足